アクセス

メール

0120-092-548

受付時間 9:00~18:00

コラム

2021.01.28
二種類の「後見」の違いとは?~成年後見制度と任意後見制度~

近年我が国では高齢化がさらに進み、認知症患者の増加など様々な問題や弊害が生じています。

認知症は平均寿命が延びている現代で誰もがなる可能性のある病であり、さらには若い世代で発症する若年性認知症も増えています。

こうした病気等によって判断能力が低下すると、本人が望ましい生活を送ることができなくなったり、大切な財産をだまし取られてしまうなど、様々なリスクや危険が生じます。

認知症も含め何らかの理由で判断能力が低下してしまった人を支援する制度はいくつかありますが、本章では二種類の後見制度「成年後見制度」と「任意後見制度」を取り上げ、両者の性質や違いなどについて解説していきます。

成年後見制度を利用する人は増加している?

成年後見制度には下の項で述べるように種類がありますが、直近数年の利用者全体の数値としては以下のようになります。

・平成24年の年末時点で16万6千件超
・平成25年の年末時点で17万6千件超
・平成26年の年末時点で18万4千件超
・平成27年の年末時点で19万1千件超
・平成28年の年末時点で20万3千件超
・平成29年の年末時点で21万件超

このデータは厚生労働省が発表している「成年後見制度の現状」から抜粋しました。

詳しくは以下で確認することができます。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/genjyou30.5.2_2.pdf

これを見ると確かに利用者数は増えていますが、認知症が社会問題化していることを踏まえれば制度利用者数はもっと増えても良さそうに思います。

思ったほど利用者が増えない理由としては、制度的に利用者が使いづらい、デメリットが多いことが一つあるでしょう。

また財産管理についてより柔軟に、デメリットがほとんどなく使える家族信託という方法が認知されてきたことも要因の一つになるかもしれません。

本記事では成年後見制度を主なテーマとして進めていきますが、次の項では成年後見制度の中身として「法定後見」と「任意後見」の二つの種類があることについて見ていきます。

後見には二種類ある!任意後見と法定後見の違い

旧来、認知症などで判断能力が衰えた人の制度的な支援策は「法定後見」しかありませんでした。

制度の根幹となる根拠の大元は民法に収められていて、法律で定める後見制度という意味で「法定後見」という呼び名が通称になっています。

法定後見は支援を必要とする人が認知症等で判断能力が低下した「後」に利用するもので、家庭裁判所での手続きが必要です。

以下のように、判断能力の衰え度合いによって「後見」「補佐」「補助」という3つの類型があります。

後見 本人が判断能力を「欠く」状態。最も強い支援を要する
補佐 本人の判断能力が「著しく不十分な」状態。中程度の支援を必要とする
補助 本人の判断能力が補佐まで要しない程度の「不十分」な状態。軽度の支援を必要とする

判断能力の衰え度合いによってどのように支援するのかが法律でしっかりと決められているのが特徴です。

法定後見は判断能力が低下してしまった人の「保護措置」の意味合いが強く、行政処分として位置づけられています。

一方、元気なお年寄りも増えてきた近年、認知症等に備えながらも、元気なうちは自らが福祉サービスやその内容を検討し、必要に応じて取捨選択しながら、契約をベースにした支援制度が求められる時代となっています。

そこで、自らの“老い支度”として、将来自分の体や判断能力が衰えた時に備え、あらかじめ必要となりそうな支援を自分で考え、契約として第三者に支援を要請できるようにしたのが任意後見制度です。

法定後見が本人の判断能力が低下した後の措置であるのに対し、任意後見は本人の判断能力が低下する「前」に準備するのが大きな違いになります。

契約をベースにするため、判断能力が大きく落ちてしまうと任意後見は利用できません。

そのため認知症になる前に準備する必要があります。

任意後見契約を元気なうちに準備しておき、いざ認知症等で判断能力が衰えた時にその契約の効力を発動させるために家庭裁判所に手続きを取ります。

手続き上では裁判所が関与するものの、行政処分による保護措置ではなく自らの意思で必要な支援を導入するということで「任意」の名前が付いています。

任意後見契約の効力を発動させる手続きを家庭裁判所で行うと「任意後見監督人」が選任されます。

任意後見監督人は、本人に不利益が生じないように任意後見人の事務執行を監督する立場です。

任意後見制度も法律に根拠がないわけではなく、「任意後見契約に関する法律」という法律に基づいて運用されます。

本項では成年後見制度に法定後見と任意後見の二種類があることを押さえましたが、近年の潮流としては本人の自由意志が反映されやすい任意後見の方が好まれる印象があります。

次の項では任意後見の活用事例を見てみましょう。

任意後見制度を利用した実際の活用事例

ここでは、法定後見よりも柔軟に運用できる特性を生かした、任意後見制度の代表的な活用事例を紹介したいと思います。

将来の本格的な認知症の発症に備えつつ、できれば今から財産管理や継続的な見守りもお願いしたいという希望を持つ方に対応した事例です。

70歳代後半のAさんは、体は今のところ元気だけれど、少し物忘れが気になってきています。

兄弟が近くに住んでいますが、配偶者はすでに亡くなっており一人暮らしのため、何かあった時に自分一人では不安だと感じています。

また訪問販売や詐欺商法などで財産を失ってしまう可能性も心配しています。

このようなケースで、任意後見では以下のような支援プランを設定することができます。

①任意後見契約本体・・将来の認知症など判断能力の低下に備える
②財産管理契約・・通帳の管理など財産の管理を任せる
③見守り契約・・定期的にAさん宅を訪れて面談し、健康や生活面での心配事などを聞き取る(上記②に付帯する)

上記①~③を解説すると、まず①は将来認知症などで判断能力が低下した場合に、必要な財産管理や身上監護(施設への入居の手配やその他法律行為の代行)ができるようにする役目で、任意後見制度のメインの契約です。

近くに住む兄弟が①~③の契約に係る支援事務の受任者となりますが、①の任意後見契約は将来認知症が進んだ時に、家庭裁判所で手続きを取るまで有効となりません。

そのため任意後見契約の効力が有効になるまでの間、②財産管理契約と③見守り契約によって日常生活の不安に対処できるようにします。

②の財産管理契約ではまず、通帳などAさんが自分で保管・管理するのが心配な財産を兄弟に預け、高額の現預金を手元に置かないことで悪質な訪問販売などの被害を防ぎます。

財産管理の他に、③の見守り契約によって定期的な訪問を行い会話の機会をもつことで、異常が生じていないか、トラブルに巻き込まれていないか、不安を感じていることはないかなどをチェックする体制を作ります。

通常、②の財産管理契約には将来①の任意後見契約の効力発動の機会を見定める義務が課されるため、財産管理契約には必然的に見守り義務も付随すると解されます。

そのため③の見守り契約は必ずしも別途作成する必要はありませんが、見守り義務を明確にするために別途契約書を作成するか、もしくは②の財産管理契約書の中に付随条項として文言を盛り込むと安心です。

成年後見人はどのような人が選ばれるのでしょうか?

法定後見の成年後見人(本人を支援する人)は、家庭裁判所での手続きの際に身近な家族や親類などを選任するようにお願いすることができます。

しかし決定権は裁判所側にあり、弁護士や司法書士、行政書士などの職業後見人が選ばれることもあります。

裁判所の決定に逆らうことはできず、職業後見人が選任された場合は報酬のための費用負担が生じるなどの問題が出てきます。

一方任意後見では契約ベースですから、任意後見人となる人物は本人が選ぶことができます。

財産管理契約や見守り契約の受任者も同様で、本人が望む人物に受任をお願いすることができます。

任意後見契約や財産管理契約などの受任者は身近な人物がなることが多いですが、有償でも無償でも構いません。

当事者が納得する費用感で契約が結ばれることになります。

成年後見人の役割は何ですか?

法定後見における成年後見人の役割は、大きく「身上監護」と「財産管理」に分かれます。

身上監護とは法律上の行為を代替して行うことで、施設への入居手続きや各種契約など法律行為全般を代理することになります。

ただし介護実務や買い物の代行など(事実行為と言います)を代行することはできず、こうした業務は専門の業者などに代行をお願いしなければなりません。

財産管理については本人の全ての財産が確実に本人のために使用されるように厳格に管理されることになり、投資や相続対策のための財産の組み換えなどはできません。

任意後見契約の場合、委任する本人が受任者に与える代理権を個別に設定することができます。

財産管理については管理を頼む財産の種類を自由に選べるので、預金だけ管理してもらいたい、自宅不動産を管理してもらいたいなど本人の要望によって変わります。

身上監護についても、法律行為全般ではなく例えば施設への入居手続きだけを委任するなど、代行が必要な法律行為を指定することが可能です。

ただしこちらも介護実務などの事実行為を委任することはできません。

成年後見制度の費用はどのくらいかかるのでしょうか?

法定後見制度における費用は、大きく制度利用の申し立てに係る費用と、成年後見人の報酬にかかる費用に分けられます。

制度利用に係る申し立て費用の方は、自分でやる場合は1万円程度、鑑定が必要になった場合は5万円程度がかかります。

鑑定とは、本人の判断能力を正確に判定する必要があると裁判所が認めた場合に行うもので、医師による診断が行われます。

申し立て手続きを弁護士など専門家に依頼する場合、その報酬も必要です。

事務所によって異なり、幅もあるので一概に言えませんが、およそ15万円程度~30万円程度が目安になると思われます。

成年後見人の報酬は裁判所が決定するのでこちらも明確に答えることは難しいですが、大体2万円~3万円程度の月額報酬がかかります。

報酬は成年後見人が裁判所に報酬付与の申し立てをすることで行います。

親族などが成年後見人となり報酬が必要なければ、この申し立てをしないことで無報酬とすることも可能です。

任意後見契約では報酬の設定も自由交渉です。

家族など身近な人に任意後見人や財産管理契約の受任をお願いする場合は無報酬でも可能ですし、任意の報酬を設定することもできます。

任意後見人や財産管理契約の受任を弁護士など職業人に依頼することもできますから、その場合は交渉ベースで報酬額を定めることになります。

任意後見で注意が必要なのが、任意後見監督人の報酬です。

親族が選任された場合は報酬を請求しないことで無償とすることもできますが、弁護士等職業人が選任されると月額1万円~3万円程度の報酬が必要になります。

任意後見監督人を誰にしてほしいか意中の人物を裁判所に推薦することはできますが、最終的な決定権は裁判所にあるため、必ずしも推薦した人物が選ばれるとは限りません。

 

PAGETOP